苗木地方の鉱物
岐阜県の中津川市苗木とその周辺地域は,水晶をはじめさまざまな鉱物の産地として全国に知られてきました。
ここではこの地方の岩石とそこに産する鉱物についてみていきます。苗木地方の鉱物
鉱物産地としての「苗木地方」は,中津川市の苗木地区のみではなく,苗木花崗岩の分布域一帯を指します。具体的には,西から恵那市(毛呂窪など),中津川市(蛭川・高山・苗木・瀬戸・山口など),長野県南木曽町(田立など)の範囲です。
ここでは,苗木花崗岩と関連する周囲の鉱床等からの産出鉱物を合わせて紹介します。
石英と水晶
石英と水晶は,鉱物としてはまったく同じものです。
鉱物としての正式な名まえは石英で,石英の中で結晶の美しいものを特に“水晶”と呼んでいます。
石英は本来無色透明の鉱物ですが,着色したものは,灰色(時に暗褐色)から黒色のものを“煙水晶”,紫色のものを“紫水晶”(アメシスト)などと呼びます。![フェルグソン石 Fergusonite-(Y)[EA66NA1117]](http://mineral.n-muse.jp/min5017_EA66NA1117fergusonite.jpg)
フェルグソン石[EA66NA1117]
岐阜県中津川市苗木(岩須)
長径5mm程度
砂鉱から産した結晶
ネズミのくそ石?
フェルグソン石は,苗木地方では砂鉱(漂砂鉱床)中に多く産します。もともとは黒色の結晶ですが,結晶面が磨滅して丸みを帯び,表面が白っぽくなっています。
こうした丸みを帯びた細長いフェルグソン石を,地元では「ネズミのくそ石」と呼んでいたそうです。
でも,「ネズミのくそ」と侮ってはいけません。かつては「誠志色」とか「アスカイ黄」と呼ばれる貴重な黄色釉薬(焼き物の絵付け用絵具)の原料として利用されました。![ジルコン(苗木石) zircon(naegite)[EA97095102]](http://mineral.n-muse.jp/min_pcd1080_EA97095102naegite.jpg)
ジルコン “苗木石”[EA97095102]
岐阜県中津川市高山 木積沢
径約2cm
砂鉱から産した笠状結晶集合体
“苗木石”
“苗木石”は,明治時代に一度は新鉱物(鉱物の新種)として報告されましたが,まもなく希土類元素(レアアース)やニオブ(Nb)・タンタル(Ta)に富むジルコンであることが判明しました。
そのため,「苗木」にちなんだこの名前は,残念ながら正式な鉱物名としては認められていません。
ウラン(U)やトリウム(Th)の含有量が多く,かなり強い放射能を有します。
![錫石 Cassiterite[EA66NA1148]](http://mineral.n-muse.jp/min5009_EA66NA1148cassiterite.jpg)
錫石[EA66NA1148]
岐阜県中津川市高山 木積沢
最大の結晶長径約6mm
最大の結晶長径約6mm
![コランダム Corundum[EA66NB0030]](http://mineral.n-muse.jp/min5010_EA66NB0030corundum.jpg)
コランダム[EA66NB0030]
岐阜県中津川市高山 木積沢
最大の結晶径約5mm
最大の結晶径約5mm
参考になる鉱物博物館の出版物
- 中津川市鉱物博物館 常設展示解説書 (1999)
- 長島鉱物コレクション展―希元素鉱物への探求―:第4回企画展図録 (2000)
- 長島鉱物コレクションと蛭川の鉱物:第10回企画展図録 (2006)
- 地質図と岐阜県の石:第19回企画展解説書 (2015)
- 美濃焼・瀬戸物と花崗岩:第20回企画展解説書 (2016)
文献
- 飛鳥井孝太郎 (1899) 磁器釉下黄色顏料発見の由来. 大日本窯業協会雑誌, 8, No.87, 71-73.
DOI 10.2109/jcersj1892.8.87_71 - 原山 智 (2006) 白亜紀最末期の還元型(チタン鉄鉱系)花崗岩—日本3大ペグマタイト産地を擁する苗木花崗岩. In:日本地質学会 編, 中部地方:日本地方地質誌 4, 朝倉書店, 288-289.
ISBN 978-4-254-16784-9 - 篠原 守・原 益彦・成瀬 豊 編 (1983) 茄子川焼. 中津川市教育委員会, 119p.
- 寺内信一 (1899) アスカ井黄につきて. 大日本窯業協会雑誌, 8, No.87, 69-71.
DOI 10.2109/jcersj1892.8.87_69